木造マンションABC(2022年改訂版)
木造の集合住宅と言えば小さな「アパート」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。大きな「マンション」は、鉄筋コンクリート造か鉄骨造で作られるのが一般的ですよね。
一定の階数・規模以上のマンションには、建築基準法で高い耐火性能(火災に強い性能)が要求されます。木は火に弱いという印象がありますから、マンションを木造で建てようと考える人はこれまでほとんどいませんでした。
でも、最新の木造技術を使えば「木造マンション」は実現可能です。ここ最近、木造マンションのプロジェクトがニュースで取り上げられ、話題になっています。このコラムで木造マンションを取り上げたのは2013年ですから、10年近くが経ちようやく時代が追い付いてきたのだと言えるでしょう。
規模のはなし
マンションに要求される耐火性能は、ざっくり説明すると階数によって決まります。3階建以上のマンションは原則として耐火建築物等としなければいけません。(3階建・4階建のマンションは一定の要件を満たせば準耐火建築物とすることが可能です。また、2階建マンションでも、要件により耐火性能を求められる場合があります。)耐火建築物は階数が増えるほど想定される火災の時間が長く設定され、建物の中にいる人が安全に避難できるようになっています。また、火災中及び火災終了後に消防活動が行われなかった場合にも建物が崩壊せず、自立し続ける建物であることが求められます。
後述のとおり、木造の3時間耐火の技術が開発されているので、耐火の観点から言えば、どれほど階数が増えても木造マンションを建てることが理論上は可能です。実績という点では、2時間耐火の技術は使用例も増えてきており実践的なレベルにありますが、3時間耐火の技術はまだまだ慎重な運用が必要な段階だと考えられます。(2022年現在)
耐火のはなし
建築の骨組みをつくる「柱」「はり」「床」「壁」を木造でつくる場合、耐火の方法には次のようなものがあります。
1 被覆タイプ
木を燃えないもの(耐火被覆材、せっこうボードなど)で完全に覆う方法です。構造体の木は見えなくなりますが、補助的な構造部材で木を見せることができます。
幅広く研究・開発がされており、誰でも使いやすい技術です。1時間・2時間・3時間耐火の技術が確立されています。
2 燃えしろタイプ
燃えしろとは火事になったときに燃える分だけ構造材を大きくしておく方法です。火災が起こると燃えしろだけが燃え、燃焼が止まる仕組みになっています。構造体の木を見せることができます。
製造法が複雑なため、使える部材が限定されます。1時間・2時間・3時間耐火の技術が確立されています。
3 木質ハイブリッドタイプ
鉄骨を木ですっぽり覆う方法です。木が火災の熱から鉄を守り、火災が進むと鉄が熱を吸収して木の燃焼が止まるという仕組みです。厳密に言うと鉄骨造ですが、鉄は木で完全に隠れてしまうので見た目は完全に木造です。
1時間耐火の技術が確立されていますが、2時間・3時間耐火の技術開発は今のところ進んでいません。
構造のはなし
火に弱いわけじゃないことはわかったけれど地震のことを考えると木造は弱そうで不安だな、と感じる人は多いかもしれません。しかし、最新の技術を使えばその心配は全くいりません。
そもそも、木材は材料として弱いわけではありません。自然材料で性能にバラつきがあるのが問題だったのですが、近年は以前とは比べ物にならないくらいにしっかりと工場で品質管理できるようになりました。こうして作られる木材はエンジニアードウッドと呼ばれその性能が厳密にコントロールされているため、鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建物と同じように構造計算することができます。もちろん木材ならではの特徴もあるので、その挙動も十分に見込んで構造設計します。
ですから、木造マンションが地震に弱いということはないのです。
但し、どんなマンションもオール木造で建てるのが最適解かどうかは分かりません。例えば、高層のマンションは木造だけで建てるのには不向きだと一般的には考えられます。そんなときは、鉄筋コンクリート造/鉄骨造と木造を組み合わせて混構造とし、互いの弱点を補い合うような設計にすると、合理的で良い計画になります。与条件に合わせて柔軟に考えることが大切です。
木造マンションのイメージ
おわりに
初心者編として、まずマンションが木造で建てられる時代になった、ということを見てきました。では、マンションに必要な性能は木造でも実現できるだろうか、という話はまたの機会にしたいと思います。
私たち日本人は、昔から木と共に暮らしを育んできました。それはコンクリートや鉄に囲まれた現代の暮らしとは全く異質のもので、その意味はとても深くて重いと考えています。木造マンションが数多く実現するようになれば、都市生活は今とはかなり違うものへと変わっていくでしょう。その可能性について考えてみたいという方がいらっしゃれば、SKYがお手伝いします。