長野県の温泉ホテルの改築計画である(Taka設計室と共同設計)。現在稼動中のホテルは施設が徐々に老朽化しつつある。また営業的な観点から、新たな目玉となるものが必要でもある。幸いにして敷地の広さに余裕があるのでこれを利用し、ホテルを連続して稼動させながら何期かに分けて施設を新設し、段階的に機能を移行させていくことによって、最終的には完全な建て替えを目指す。

このホテルはいわゆる高級温泉旅館ではなく、ファミリーを中心とした幅広い顧客層にリーズナブルな価格で提供される中規模の温泉ホテルである。したがって、いたずらにコストを掛けた作り込みは求められていない。そこで、私たちは広い敷地の周辺に広がる山沿いと川沿いの豊かな自然に着目した。建物をできるだけ長細くすることによって、施設の至る所で周辺の自然景観を享受できるようにし、かつ敷地を縦断するように配置することで、建物内でビューの移り変わりが楽しめるようにした。それぞれの部分には、特徴あるビューにふさわしい機能が配置される。なおかつこの全体計画が、段階的な機能の移行にフィットするようにデザインされている。

また、温泉地の宿泊施設は消費の対象であるため、一般的に建築のライフサイクルは短いが、ここではエイジングをテーマに掲げ、古びることで味わいが増すようなものを考えている。将来的に、リニューアルすることによって新しい価値が付加されるのは良いが、スクラップアンドビルドの対象になってしまうようでは、色々な意味において不幸であり温泉文化も育たないと考えるからである。

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